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「クロウが……出かけたのか」
「そうよ。たった今、あの窓から」
彼女が外を眺めていた、あの窓から。
「今度こそ帰ってこないかもしれないわ。有名な護衛屋とかち合う、ってこぼしていたし、ずいぶん遠い街の依頼だから。もし重傷を負ったら……ここまで保たない」
「そうか……でも、待つんだろ?」
ナースは寂しそうに微笑して、うなずいた。
「それが〈契約〉だからね」
――――契約
それは第三者から見れば〈鎖〉であり、彼女にとっては残された最後の〈綱〉。
いつ切れるかわからない――――〈絆〉
「次はもっとまともな人を選ぶわ。殺し屋との恋はもうたくさん」
茶化して言うナースは痛々しくて、チハルは身勝手と知りつつもほんの少し眉をひそめた。
どうして、どうしてこの人はこんなにも想えるのだろう。なぜこんなことになったのだろう――――
チハルの心を見透かしたように、ナースは無理矢理の明るさを引っ込めた。そして……少しだけ顔を伏せて、昔話を始めた。
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