第1章

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「お兄ちゃん」  上中一成(かみなか・かずなり)はその日、下校中に商店街を一人で歩いていると、背後から声をかけられた。    一成は、お兄ちゃん、と呼ぶ声が自分のことを差しているのだとすぐにわかった。  声の主は、一成のスボンを手で掴んできた。  一成が振り向くと、そこには、女の子がたっていた。薄いピンクのワンピースに、ショートヘア、妙に大人っぽい顔立ちの少女だった。 「あそこに、不良がいるでしょ?」  女の子は、通りの奥を指差していった。 「あたしのお願い、不良をやっつけて」  一成は、発言の意図がのみ込めないでいた。 「やっつける?」 「そう。殴って、やっつけるの」  一成は女の子が差す方へ目をやった。  二十メートルほど先、ゲームセンターの入り口に、二人組の姿があった。  金髪と坊主頭の、ガラの悪そうな男たちが地べたに座り込んで談笑していた。二人とも、タンクトップにジーンズとラフな格好だった。歳は、一成より五つほど上に見える。一成には、どちらも面識のない男だった。  なんだ子供もいたずらか、と無視して立ち去ろうとした上中に、まって、と女の子の声がかかった。 「わかったから。それじゃあ、あたしになにかあったら、すぐに警察を呼んでね」  女の子は一成にそう言い残すと、一人で歩き始めた。  おかしな子だな、と一成は思ったが、ふざけてるのだろうと特に気にしないことにした。  一成は、帰路につこうと、女の子の背後を歩いた。どうやら、女の子は、ゲームセンターに向かって真っすぐ歩いているようだった。  一成はその後ろ姿を見て、ふと、立ち止まった。  なにかあったら警察を呼んで。そう告げた女の子の言葉に、不安を覚えた。  あの子は、これからなにをするつもりなのか……。  一成は、歩くペースを落として、離れたところから少し様子を見ることにした。  女の子が二人組の前まで辿り着いたところで、金髪とスキンヘッドが顔をあげた。  女の子は、二人組に話しかけているようだった。一成は離れた場所でその様子を見ていた。少ししてから、女の子の陰から金髪が顔を出した。金髪は、一成の様子を確認しているようだった。  続いて、女の子も一成を見た。指を差している。  二人組の男が、一成のほうへと歩きはじめた。女の子は、男たちの背後に続いた。
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