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嬢華の鬼気迫る宣言に、一成はたじろいだ。
「やるって、どういう意味だよ……」
「そのままの意味よ」
嬢華は一成の眼前で拳をつくった。しなやかな指だが、先ほどの結果を見せられた後では、心臓にナイフを突きつけられてるのも同じだ。
殴られてはたまらないと一成は更に引き下がた。
「まってろ、姉貴。すぐにケリをつけてやる」
嬢華は胸元で腕を重ねて呼吸を整えたあと、じゃあねと一言いって、踵を返した。
嬢華の背中を見送るつもりで、一成は手をあげた。
頑張れよではなく、勝手にしろという意味合いだった。嵐は過ぎ去った。
嬢華と姉貴の間にどんな確執があるのか知らないが、嬢華とはしばらく会えなくなるだろう、と一成は思った。どのような結末になるか、想像に難くないが、嬢華が逮捕されれば保護観察は確定だろう。
「あ」一成は、そこで、嬢華の言葉に違和感を見つけた。
「ちょっと待て」一成は慌てて嬢華の背中に声をかけた。「お前に姉貴がいたなんて、初めて聞いたぞ」
嬢華はすぐに反応して、一成を見た。
「いってないもの」
「それ、どういう意味だ?」
嬢華には妹がいた。
確か今年の春で小学三年になる。名前は、爛麗(らんれい)。
だが、姉がいるなんて聞いたことがない。
聞いてないなら知らないということは一般的にはあり得るが、嬢華とは幼馴染で、既に記憶が曖昧な幼少期から共に写真に写ってきた仲だ。
まったく記憶にないが、二人して裸のまま、庭に作った簡易プールで遊んでいる写真まで見たことがある。
「姉の名は亜夢(あむ)。中野亜夢。私の倒すべき相手。それじゃ」
嬢華は早口でそういうと、腕をぶんぶんと振り回しながら通りの奥へと消えていった。
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