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「まずいね」
立ち尽くした一成に、女の声がかかった。
さっきの、ガキんちょ。
いつの間にか見えなくなったと思ったら、また姿を現した。
図々しいガキとはいえ、本気で怒るのも大人げないと一成は思った。
「おまえなぁ、なにがしたかったんだよ」
「お兄ちゃんのせいだからね」
少女は一成の言葉にかぶせるようにいった。
「力は、行使するものに引き寄せられる」わかるかな? と少女はいう。「お兄ちゃんが不良を殴らなかったから、さっきのお姉ちゃんに力は引き寄せられたの。あたしがお兄ちゃんにあげようとした力は、もう二度と手に入らないよ。お兄ちゃんもはっきり見たでしょ。あのお姉ちゃんは、もう戻れない」
「それは」確認済みだ。一成は、先ほど目の前で起こった顛末を思い返した。嬢華は、ただ小突いただけだ。それよりも……。
「力ってなんだ? お前は、何者だ?」
「そんなことはあとでいいから、今すぐお姉ちゃんを止めて」
「止めようがないだろ」と一成はもう一度、例の電柱に目をやった。見ると、スキンヘッドの男が金髪を身体を起こして担ごうとしていた。金髪は、糸の切れた操り人形みたいに、両腕をぶらぶらさせている。
「俺は、ああはなりたくない。もし、嬢華を止めに入ったとしてもだ、俺は、間違いなく殺される」
「中野亜夢。嬢華お姉ちゃんは、確かそういったよね」女の子の声は震えていた。「まずいから」
「触らぬ神に祟りなし、だ」
「暢気にしてる場合じゃないよ。今に、天変地異が起きるんだから」
「なんだそれ?」
「中野亜夢は、女帝の異名を冠する日本で最強の女子大生。もしも、亜夢の力と嬢華の力がぶつかりあったら、その時は、日本が消える」
「つまりだ、姉妹揃って、モンスターってことだな」
一成は冗談をいったつもりだが、少女は真剣な表情を崩さなかった。
「本当はね、お兄ちゃんに、亜夢を止めてほしかったの」
少女は一瞬だが、寂しそうな顔をした。「……だけど、作戦は変更。お兄ちゃんが二人を止めるんだ」
「だから、どうして俺が命を懸けなきゃいけないんだ?」
「その役目は、お兄ちゃんにしかできないから」
一成は、仲裁に入った自分を、シュミレートしようとした。いや、するまでもなかった。
「断る」
「平気。お兄ちゃんには、とっておきの能力を用意してあるから」
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