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女の子は、名をベティと名乗った。おそらく偽名だろうと一成は思ったが、気にしなかった。
ベティは一成に質問した。
嬢華の兄弟こと。
嬢華は三姉妹である、もし、他に兄弟がいてもそいつらは知らない、と一成はベティに告げた。
次に、一成がベティに質問した。
力を手に入れることへのリスクについて。
力を得る代償に寿命が半分になる、とかではシャレにならない。ベティは特にリスクはないといった。ただ、力の使いようによっては、例えば嬢華が誰かに暴力をふるったことにより逮捕されるようなリスクは当然あるといった。一成は、納得した。
一成が首を縦に振ったところでベティが呪文のように言葉を紡いだ。即興で行われた儀式はものの十秒ほどで終わった。
「終わったよ」
とベティが告げた数秒後、一成の身体に異変が起こった。
やはり、ベティの言葉は本当だった。
頭に衝撃がはしったかと思うと、すぐに身体中が熱を発した。手の先から足の指先に至るまで、決壊したダムから溢れる濁流のように血液が流れるのがわかる。身体の中を、どのようなルートで血液が循環しているのかすら感じられるほどの疼き。
嬢華が、小躍りして喜ぶ気持ちが、今ならわかった。
おさまることを知らない熱風が身体の中を吹き荒れる。
「このまま死ぬとかないよな?」
一成は、思わず口にしていた。
「慣れれば、すぐおさまるよ。それより、お兄ちゃんありがとう」
ベティは、笑った。
ぱっちりとした二重まぶたの奥に見える眼は、吸い込まれそうなほど澄んでいる。作り物みたいだ。子供とは思えないほど艶に満ちていた。
「いい? 失敗は許されないよ。まず、二人の喧嘩を阻止すること」
ベティの存在感に圧倒されていることに気づいた一成は、平常心を装おうと咳払いをした。
全身からこみ上げる熱気をこらえながら、一成はいった。
「それで、俺に、なにが出来る?」
「お兄ちゃんの力で、中野さんちの女の子を、メロメロにしちゃおう」
これが、すべてのはじまりだった。
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