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雪は差し出された右手を少しの時間眺めた後、思い切ってその手を握りしめた。
雪を引き起こした後。男は。
「オーディションといきたい所ですけど。参加者はあなたひとりですか……。残念ですがしかたない。はじめましょう」
と、雪の目をしっかりと見つめて言った。
雪は心の中で逡巡する。この人が主演女優を無理やり妊娠させてたのだろうか?だとしたらすべての女の敵だ。
「じゃあ自己紹介からお願いします。芸能事務所に所属している場合は事務所名もお願いします」
「えっええっと犬山雪。18才。事務所は入っていません」
雪は声を震わせて質問に答える。監督のまっすぐな視線に押されて答えてしまったのだ。
監督は雪の顔を真剣に見つめた後、可愛らしい笑顔で、
「よろしくお願いします。雪さん。一緒に世界中の人から愛される映画を作りましょう」
といい右手を差し出してきた。
雪の頭に危険信号が点滅する。こいつは女の敵だぞ。ここから逃げ出せ。
だのに手を伸ばし監督の手を握ってしまった。
雪の手は汗でびっしょりだが監督はそんなこと気にせず、強い力で握り返す。
これが全てのはじまりだった。
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