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「よろしかったら、次はさっぱりめのテイストのものをお持ちしますよ」
空になったホットグラスを見つめていた美紗は、落ち着いた声に問いかけられ、驚いて顔を上げた。
美紗を柔らかな眼差しで見つめるバーテンダーは、つい先ほど客の勤め先を聞いて慌てふためいた若者とは、目鼻立ちは同じでも、全く別の人間のように見えた。かなり年上、というよりも、あの人と同じくらいの年齢の、包容力を感じさせる大人の男性の雰囲気が、ゆったりと漂っている。
美紗は、吸い寄せられるように征を見つめ返した。
藍色の目が、深い光を湛えて、美紗を圧倒する。
「ここは、あなたの大事な思い出がたくさん詰まった席なんでしょう? 最後に、少しの間だけ、心を休めていってはいかがですか」
最期に、少しの間だけ、心を休めていってはいかがですか
美紗は無言で頷き、下を向いた。
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