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4-8 星のない夜空
週末が近づくと、美紗は、総務課が配信する統合情報局幹部のスケジュールをまめにチェックするようになった。
第1部長の午後五時以降の行動予定欄が空白になっている金曜日は、仕事が終わり次第、「いつもの店」へ行く。顔を出すと、必ず日垣がカウンター席に座っていた。二人揃うと、マスターは無言で、奥まった「いつもの席」へと案内してくれた。
衝立に隔てられた空間で話す内容は、もっぱら仕事のことばかりだった。市ヶ谷の中しか知らない美紗にとって、国の内外で幅広い職務を経験している日垣の話は、いつも意外性に富んでいて刺激的だった。
仕事帰りにバーで一緒に飲み、ひとしきり話をして、終電に間に合うように店を出る。ただそれだけの時間が、不思議な興奮と安らぎに満ちていた。
日垣は、美紗が大学時代に出会った同年代の男達とは、全く違っていた。
世間知らずで子供じみていて自分のことだけで手いっぱいの彼らと、長年、巨大な組織の中で有能と評されてきた1等空佐の彼。
本来、比べること自体が無意味だが、社会に出て数年余りの美紗に、そのような思慮深さはなかった。
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