5-1 ランチでの噂話 

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 美紗の右隣の席に座ることになった小坂という名の3等海佐は、年齢こそ富澤より少し上の三十代半ばだったが、精悍な顔つきをした寡黙な前任者とは全く正反対のタイプだった。愛嬌のある丸い顔をしていて、着任したその日のうちに直轄チームに溶け込み、せっせと「シマ」の笑いを取っている。  全く気取らないその言動は、美紗には面白く映ったが、「王子様」の後任者に若干の期待を寄せていた吉谷はかなり失望したらしい。 「二人でくだらないことばっかり、ひっきりなしに喋って。空の小僧はますます絶好調じゃない? よっぽど試験の出来に自信があるのかしらね」  吉谷は、刻み海苔がトッピングされたスパゲティにフォークを突っ込み、それを不愉快そうにぐるぐると回した。  直轄チーム唯一の尉官である片桐は、三月上旬に、空自の指揮幕僚課程の選抜一次試験に臨んだ。しかし、難関と言われるその試験内容に完全に圧倒されたと言って、相当凹んで帰ってきた。  すっかり大人しくなってしまった彼を元気づけたのは、新入り幹部の小坂だった。片桐より五、六歳ほど年上の彼は、優秀な前任者とは対照的に、三度目の受験でようやく指揮幕僚課程への入校を果たしたという経歴の持ち主だった。  吉谷から疎まれるほどに明るい性格の小坂は、数多くの失敗談を、人目をはばからず気前よく披露する。1等空尉の「メンター役」を務めるにはかなり頼りなさそうだが、その身近な雰囲気が当の片桐には心地よいのだろう、と美紗は感じていた。 「小坂3佐は独身だそうですし、片桐1尉とは共通の話題も多いんだと思います」 「海の小僧、やっぱり独り者かあ。独身でも、あれはパス。『王子様』は物静かなイケメンでないとね」  ふざけて口を尖らせた吉谷は、「うちの部で富澤クンの次にイケメンといったら……」と言いかけ、フォークに太く巻き付いたパスタをほおばった。それに合わせて、美紗がホワイトソースのたっぷりかかったドリアを食べようとしたとたん、吉谷は()()と思いついたように目を見開いた。 「ねえ、部長の日垣1佐どう?」 「熱っ」  驚いた拍子に、スプーン山盛りにすくった出来たてを、冷まさず口の中に入れてしまった。両手で口を押える美紗に、吉谷は急いで水の入ったグラスを差し出した。 「そんなにびっくりするチョイスだった? 確かに、日垣1佐じゃ、ちょっと『王子様』って年じゃないか。美紗ちゃんから見たら、二十くらい上だもんね」  美人顔を崩して大笑いする吉谷に、どう反応していいか分からない。美紗は、口の中の熱さがひかないフリをして、取りあえず黙っていた。
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