5-3 梅雨時の憂鬱 

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 地域担当部は、それぞれ、主に分析業務を担当するセクションと、電波や画像などの特殊情報を扱うセクションに、大きく二分されている。第8部のうち、前者に所属する女性職員は、確か四、五名ほどだった。  後者は、第1部が入る棟とは別の、秘匿性の高いエリアに指定された建物の中にあるため、そこに立ち入るクリアランスを持たない美紗には、状況は全く分からない。以前に誤って紛れ込んだ極秘会議もその建物の地下で行われたのだが、その時も、会議関係者以外の姿は全く見かけなかった。  誰だろう。とにかく、日垣貴仁に興味を抱く女性が、彼の行動範囲内に存在することは、間違いない。 「あのっ」  美紗は、書類に目をやりながら自分の背後を歩き過ぎようとする上官を、やっとのことで呼び止めた。日垣は、その小さな声を聞き漏らすことなく、背をかがめて美紗を見た。 「さっきの、レセプションは……」 「あれはいいんだ。個人的なことで、不愉快な現場に付き合わせるわけにはいかないから」  端正な顔立ちが、穏やかに笑いかける。別に構わないから連れて行ってほしい、と言うわけにもいかず、美紗は唇を噛んだ。もう少し適切な言葉はないかと焦る。  その間に、日垣は、「それに、若い鈴置さんが私の奥さん役では、あまりに可哀想だ」と苦笑いして、そのまま部長室のほうへ歩いて行ってしまった。    美紗の胸の中で、何かが飛び回っているような、焦燥感にも似た不快な感覚が、にわかに広がっていった。  それが、「奥様代理」という役を掴み損ねたせいなのか、それとも、突然「ライバル」の存在を聞かされてしまったせいなのか、自分でも分からなかった。
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