5-4 ライバルとの対面 

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 自分とは対照的な相手に、美紗は緊張しながら挨拶をした。外見も中身も賑々しい「ライバル」は、満面の笑みで歓迎の意を示した。 「今更だけど、大須賀(めぐみ)です。よろしくね。鈴置さん、めっちゃ若いよね。今度飲みに誘ったりしたら……、まだ駄目なのかな?」  メイクに気合を入れるのが趣味らしい大須賀から見ると、童顔で化粧っ気もない美紗は十代に見えるらしい。  美紗はわずかに顔を曇らせた。初対面に近い人間には、必ず同じようなことを言われる。仕事は覚えれば徐々にスムーズに回るようになるが、童顔で頼りなさそうな見かけはどうにもならない。 「美紗ちゃん、こう見えてもお酒強いんだって。ちなみに、四大出の新卒入省、今年で四年目だよ」  会話が途切れそうになるところを、吉谷が絶妙にフォローした。大須賀は「そうなんだ、ごめーん」と軽く流すと、指で数えて、 「ん? ……ってことは、今、二五か六? じゃあ、四捨五入するとアラサーの仲間入りだあね?」  と、妙に嬉しそうな声を出した。 「いいなあ、若く見えて。それに、一日中、日垣1佐を見てられるんでしょお?」  スーツの中に窮屈そうに収まる大きな胸の前で手を組んだ大須賀は、太いアイラインの入った目をしばたたかせ、羨ましげに美紗を見た。  「ライバル」は、予想していたよりずっと友好的なタイプのようだ。少し安心したものの、再び日垣の名前を口にされると、やはり落ち着かない。  何と答えようかと戸惑う美紗の代わりに、また吉谷が話に入った。 「そうでもないって。()()の部長は不在のこと多いし、いても部長室に籠ってるから」 「でもお、同じフロアってだけで、羨ましい。あの人、カッコイイよねえ。そう思わない?」  大須賀のあまりにストレートな物言いに、美紗はひきつった笑顔だけを返した。いわゆる「社内恋愛」は、もう少し密やかに展開するものだと思っていた。このアグレッシブなライバルは、ただふざけているのか、それとも、敢えて主張して周囲をけん制するつもりなのか。  どちらにしても、自分にはとても勝ち目はなさそうに思えた。あの人を好きになったかもしれないと気付いてから半年以上、ただその気持ちを抱えたままの自分には……。  微かに沈んだ表情を浮かべる美紗の横で、大須賀は嬉々として第1部長の話を吉谷に延々と聞かせた。途中で何度か女子更衣室の扉が開き、数人が出入りしたが、全く気に留める様子もない。  ついには、美紗に向かって、 「鈴置さんとお近づきになれたのは、きっと神様の思し召しだわあ。今度、直轄チームに遊びに行っていい?」  と言って、艶っぽく口角を上げた。どうやら、美紗をダシにして、直轄チームに入りびたり、第1部長を眺めようと企んでいるらしい。 「人間ウォッチングは一人でやりなさいよ。ホント、今度のレセプションには、メグさんこそ連れて行きたいわ」  呆れながらも、大須賀を親しげに愛称で呼んだ吉谷は、弁当箱を手早く片付けると、ゆったりと缶コーヒーを飲み始めた。
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