5-4 ライバルとの対面 

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 吉谷から顔を背けるように下を向く美紗の隣で、大須賀はますます興奮気味に早口で喋り続けた。 「日垣1佐、一人暮らしだったんだあ。それで『奥さん代理』って話になったんですね。そういうことは早く教えてくださいよ」 「私だって、『奥さん代理』の件は昨日の夕方に聞いたんだから」 「違う、違う。単身赴任してるって話。そうと分かれば、こっちのアプローチも変わってくるじゃないですか」  美紗は、ますます声が大きくなる大須賀の横で、凍り付いた。豪胆な「ライバル」は、やはり、相当に気合が入っているらしい。 「やだ、変な方向にいかないでよ」  吉谷が不愉快そうに眉をひそめるが、大須賀に先輩の言葉は全く聞こえていないようだった。 「取りあえず、そのレセプションから攻めようかな。吉谷さんは、あくまで個人宛に来た招待状で出席するんでしょう? つまり、日垣1佐の『奥さん代理』のポストは、まだ空いてるって解釈できるわけだし、二人で付き添ったって別に構わないわけだし……」  大須賀は一人でブツブツ呟くと、突然、美紗のほうに向きなおった。 「ねえっ、鈴置さん!」  美紗が飛び上がりそうに驚いて顔を上げると、完全にテンションの上がった「ライバル」は、ピンク系のアイメイクがバッチリ決まった目を大きく見開き、椅子ごと体を寄せてきた。 「忙しいトコ悪いけど、日垣1佐にお伺い立ててくれないかなあ? 『奥さん代理』に8部の大須賀恵が立候補しますけど、追加の付き添い、いかがですかって」  私もそれを狙ってたのに、と言いそうになって、美紗はすっかり動転した。金魚のように口だけを動かしながら身を引いたが、大須賀はなおも、派手な顔とボリュームのある胸を近づけてくる。 「私、吉谷さんほどじゃないけど、()()()にちょっとだけ留学してたことあるから、フランス語はそこそこできるし、知らない人と話すのも全っ然平気だから。大物だろうが何だろうが、日垣1佐に寄ってくる変な奴いたら、アタシが盾になってあげるわ。どう? 適任よ!」 「ちょっと、美紗ちゃん困ってるじゃない。だいたい、女子会はどうしたのよ」  吉谷が暴走気味の大須賀を美紗から引き離そうとしたとき、険のある声が三人の間に割り込んできた。 「地域担当部の人が外国人と会うのは、原則禁止なんじゃないんですか」  部屋の奥のほうで、二十代後半と思しき女が、明らかに侮蔑の色を目に浮かべて立っていた。グレーのワンピースに薄手のカーディガンというラフな格好をした痩身の彼女は、細い眉に釣り目気味という顔立ちのせいか、かなり気が強そうな印象を醸している。
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