5-4 ライバルとの対面 

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 大須賀は、自分より若いその女性職員に、露骨にムッとした顔を向けた。しかし、吉谷は全く動じることなく、「そうだったよね」と場を取り繕った。 「()(しま)さんの言う通り。外とのおつきあいは()()の特権だから」  統合情報局では、保全上の観点から、職員が私的に外国人と接することを制限していたが、地域担当部に属する人間は特に厳しい制約を課されていた。秘区分の高い情報源に接する機会が、第1部に比べて、格段に多いためだ。 「ああっ、悔しいなあ。私も1部に引っ越したい」 「1部長から8部長に『人を出してくれ』って一言入れば、メグさんも堂々と行けるんだけどね。指揮系統を通じてレセプションに出ろと言われるんだったら、部内規則は関係なくなるわけでしょ?」 「うちの部長が間に入れば、か。今更それは無理ですよねえ」  先輩二人が再び話し始めるそばで、美紗はそっと後ろを振り向き、冷ややかな声の主を見た。  美紗より少し背が高そうな相手は、あまり化粧っ気もなく、地味さでは美紗と似通うものがあった。しかし、先方は、親近感どころか、敵意に満ちた目つきで、美紗をじっと睨み返してきた。  過去に何か、彼女の不興を買うようなことをしただろうか。統合情報局に異動してから今日までのことをざっと思い返してみても、美紗に心当たりはなかった。  吉谷が「八嶋さん」と呼んだ女性職員は、同じ第1部の所属だった。確か、事業企画課の渉外班にいる。  海外関係機関との連絡調整や交流窓口の役目を担う渉外班は、第1部長直轄チームとは仕事上の関わりがほとんどなかった。実際、美紗は、仕事中に時々八嶋の姿を見かけてはいたが、彼女と言葉を交わしたことは一度もない。  全く接触がないのだから、不興を買う機会すらないはずだ……。 「せめて、ランチ会でもアレンジしてくださいよお。『日垣1佐を囲む会』みたいな」  大須賀のため息交じりの声が聞こえ、美紗は、はっと顔を上げた。独り黙考している間に、先輩二人の話題は少し違う方向へ移っていた。 「あの人、そういう目立つの、あまり好きじゃないみたいなんだよね。その場に居合わせた二、三人で小ぢんまりやるってほうが、まだOKしてもらえる可能性高いかな」 「そりゃあアタシだって、人数が少なけりゃ少ないほどいいですよお。サシなら完璧っ」  何を想像し始めたのか、大須賀は急ににやけだした。 「できれば、ランチよりは飲みがいいなあ。お仕事帰りに二人っきり。日垣1佐、どこか雰囲気のいいバーにでも連れてってくれないかなあ」  妄想に耽る彼女の横で、美紗は込み上げてくる何かを急いで飲み込んだ。月に数回訪れる「いつもの店」の情景が、鮮やかに目の前に広がる。  いつもの席から見える夜景が、  いつも水割りを飲んでいるあの人の姿が、  いつも和やかなあの人の笑顔が……。
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