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話によれば、美紗より一年半ほど早く第1部に配属されたという八嶋は、四年制大学を卒業し、国内の外資系企業で三、四年ほど働いた後、年度途中で防衛省に入った、ということだった。入省後はすぐに現職に就いて、今に至るらしい。
ということは、八嶋は、美紗より年齢は数歳上ながら、入省年次では半年分ほど美紗の後輩、という複雑な立場になる。
「まあ、普段から愛想はないわね。私も何回か声かけたことあるけど、迷惑そうにしてたし。それにあの子、ちょっと感情の起伏が激しいところあるみたい。課長班長あたりとよく衝突してる」
「ふうん。気に入らないことがあると我慢できないんだ?」
大須賀は頬杖を突いて口を尖らせた。前かがみになると、豊かすぎる胸がテーブルに触れそうになっている。
「でも、アタシ何かした? 今までろくに話したこともなかったのに。こっちは名前も出てこないくらいだっての」
美紗がほんの少し前に抱いた疑問と同じようなことを、大須賀は喚くように言った。そして突然、「もしかして!」と素っ頓狂な声を上げて、テーブルを叩いた。
「アタシが日垣1佐のこと話してたからあ?」
「何で?」
怪訝な顔をする吉谷に、大須賀はすっかり慌てた様子でまくしたてた。
「さっきの八嶋さん、実は自分が日垣1佐を狙ってたりとか! それで、アタシがカッコイイとか『奥さん代理』とか言いまくってたから、頭きて言いがかりつけた、みたいな……」
「メグさん、何かっていうと『日垣1佐』だよね」
吉谷は、呆れたと言わんばかりに眉をひそめた。しかし、大須賀は、真剣な目つきで、情報局の主と言われる大先輩をじっと見つめた。
「まさか、すでに二人こそこそ付き合ってるなんてこと、ないですよね? 1部はそういう噂話とか全然ないって、吉谷さん、言ってましたもんね?」
「うん? まあ、そんな話は、ないように見えるんだけどな」
「吉谷さん! 『ないように見える』じゃ困るんですよっ。自慢の情報網でばっちり調べてくださいよお」
濃厚メイクの下で血相を変える大須賀に、吉谷はとうとう声をたてて笑い出した。
「はいはい。気を付けて見張っとくね。でも、もしうちの部長と八嶋さんの間にマジなご関係があったら、私なんかには絶対分からないと思うな。日垣1佐は用心深いから」
「そ、それ、どういう意味?」
大須賀が目を丸く見開いて声を落とす。それに合わせるかのように、吉谷も声を低めた。
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