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「あの人、すべての方面に頭切れる人だから。周囲に知れるようなヘマはまずしないと思う。優しそうに見えて、結構ドライだし。相手があんな若いのだったら、下手な行動に出られないように心理的にコントロールするのだって、きっとお手のもの……」
その後の言葉は、もう耳に入ってこなかった。美紗はふらりと立ちあがった。
「あの……、私、戻ります」
「あ、引き留めちゃってごめんね、美紗ちゃん」
吉谷は、がらりと変わって明るい声で手を振ると、すぐに大須賀をからかうようないたずらっぽい表情に戻った。テーブルに残った二人は、昼休みが終わるギリギリまで、第1部長と八嶋香織の話にひそひそと興じるようだった。
女子更衣室の扉を閉めると、不穏な会話は完全に聞こえなくなり、廊下を歩く人間の足音だけが時おり響いていた。
美紗は、二、三歩ほど歩きかけ、立ち止まった。急に目まいのようなものを感じた。
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