5-4 ライバルとの対面 

9/9
前へ
/320ページ
次へ
  「あの人、すべての方面に頭切れる人だから。周囲に知れるようなヘマはまずしないと思う。優しそうに見えて、結構ドライだし。相手があんな若いのだったら、下手な行動に出られないように心理的にコントロールするのだって、きっとお手のもの……」  その後の言葉は、もう耳に入ってこなかった。美紗はふらりと立ちあがった。 「あの……、私、戻ります」 「あ、引き留めちゃってごめんね、美紗ちゃん」  吉谷は、がらりと変わって明るい声で手を振ると、すぐに大須賀をからかうようないたずらっぽい表情に戻った。テーブルに残った二人は、昼休みが終わるギリギリまで、第1部長と八嶋香織の話にひそひそと興じるようだった。  女子更衣室の扉を閉めると、不穏な会話は完全に聞こえなくなり、廊下を歩く人間の足音だけが時おり響いていた。  美紗は、二、三歩ほど歩きかけ、立ち止まった。急に目まいのようなものを感じた。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

746人が本棚に入れています
本棚に追加