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金色に縁どられた厚みのある招待状には、宛先として、確かに二人分の氏名と肩書が記されていた。
Colonel and Mrs.Takahito HIGAKI
(1等空佐 日垣貴仁 様/令夫人)
三文字のアルファベットが、これまでほとんど意識していなかった存在をはっきりと主張していたことに、今更ながら、気付いた。
「Mrs. HIGAKI(日垣令夫人)」は、この大都会から遠く離れた街に住む、ただ一人の女性を示している。吉谷綾子がどんなに才色兼備であろうと、大須賀恵がどんなに積極的であろうと、その地位に辿り着くことはない。
鈴置美紗がどんなに想いを寄せようと、彼の「令夫人」には、なれない。
一面の青が、尋ねるように瞬く。
彼を求めるのは、罪深いことではないのか
彼は、求められることを、望んでいるのか
その答えは、あまりにも明白だ。
日垣貴仁に家庭があることは、初めから分かっていた。彼が、離れ離れに暮らす家族を大事にしていることも、知っていた。家族ある男性を好きになっても意味はない、と吉谷綾子が言った時、美紗は確かに反論しなかった。
それなのに、いつもの店で彼に会えば、それらすべてを忘れていた。忘れたフリをして、これまでの時を過ごしてきた。
一面の青が、諭すように煌めく。
彼を好きになっては、いけない
彼に想われたいと、望んでは、いけない
美紗は、突き刺すような青い光の中で、立ち尽くした。もう好きになってしまった。好きになって、半年以上も過ぎてしまった。
せめて、今のままで、いたい
それが正直な気持ちだった。都合のいい、身勝手な思い。
心の中で想うだけにするから
決して想いを伝えたりしないから
今のままでいることを、許してください
一面の青は、美紗の願いには沈黙し、ただ問い返すように、冷たく光る。
心の中で想うだけ、決して伝えずに想うだけ
貴女にそれができるのか
美紗は、唇を強く噛んで、自分を取り囲むように広がる青い光を見つめた。
できない、わけにはいかない
あの人の傍にいるために、絶対に気持ちは伝えない
音もなく降り続く雨の中で、青と紺の合間の色に彩られたイルミネーションは、美紗の決意を試すかのように、いつまでも美しく煌めいていた。
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