5-9 新たな女 

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 翌朝、盆休み直前の情報局内には、下世話な噂が流れていた。  美紗が、部屋に備え付けのコーヒーメーカーで朝の一杯を淹れていると、「直轄ジマ」のほうから女の大きな声がした。 「鈴置さん今日来てますう? あーっ、美紗ちゃん!」  1等空尉が指し示した方向を見た大須賀は、美紗の姿を認め、「良かった! 休みじゃなくて」とさらに大声を出した。美紗が挨拶をすると、迫力のある胸を強調するようなデザインの真っ青なスーツに身を固めた相手は、恐ろしい勢いで駆け寄ってきた。 「ねえ、聞いたあ? 昨日……」  大須賀はそこで慌てて声を低め、美紗の肩越しに、事業企画課がある方向を睨みつけた。 「へえ、しれっと来てるんだ。八嶋香織」  あまり耳にしたくない名前が呼び捨てにされるのを聞いて、美紗は、あからさまに驚いた顔を大須賀に向けてしまった。 「あ、やっぱ知ってた? あいつが日垣1佐に抱きついたって噂」  美紗は思わず息を飲んだ。前日、偶然二人を目撃した時は、八嶋の頭が軽く日垣の体に触れただけのように見えていたが……。誰もいないと思っていた廊下に、やはり人の目があったのだろうか。そちらのほうが気になる。 「さりげなくキスしてたとか言う人もいるし。信じらんないっ」  大須賀は、大声で喚き散らさない代わりに、握りしめた拳を震わせて怒りを表した。 「それは、ないと、思います。あの背の差じゃ、背伸びしても……」  八嶋は、美紗より五、六センチほど背が高かったが、それでも背丈のあるほうではない。彼女と長身の日垣が共に立ったままで唇を合わせるのはかなり難しいだろう、と美紗は思った。 「そっか。そうだよね。あいつが背伸びしても届かないか。美紗ちゃん、いい分析するう」  大須賀は、アイシャドウで大きく見える目をさらに見開き、感心したように頷いた。そして、急にほくそ笑むような顔を美紗のほうに寄せた。 「立ってキスできるかなんて、結構面白いこと考えてんだね。実は妄想するタイプ?」 「ち、ちが……」 「別にいいじゃん。あ、でも、日垣1佐とのキスシーンなんか妄想したら、アタシが許さないからね」  強烈な言葉を連発する大須賀に、美紗の顔は完全に紅潮した。それをどう解釈したのか、大須賀はますます目を細めて美紗を見据えた。  視線を惹きつける豊満な胸が、脅すように迫る。 「ねえ、美紗ちゃん、八嶋香織の見張り、頼んでもいい?」 「見張り?」 「あいつが日垣1佐に近づこうとしたら、妨害してよ」  そう言って、大須賀は再び、部屋の一角を見やった。美紗もわずかに身体を動かして、大須賀の視線の先を見た。
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