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「貴女の意思を言葉にすることに抵抗があるのでしたら、いつもの曜日、いつもの時間帯に、こちらにお越しになればいいのです。ただそれだけで、察しの良い方なら、お気付きになるでしょう」
カクテルグラスの中で、青と紺の合間のような色が、さざめくように光る。
「限りある時間を、後悔のないように、お過ごしになってください」
限りある、時間
あまりにも明白でありながら、実感し難いその事実に、美紗は息を飲んだ。
「知って、いらしたんですか。私と、日垣さ……」
新人と紹介されたバーテンダーは、穏やかな笑顔を消し、美紗の言葉を遮った。
「貴女は、何にも怯えることなく、お相手の方を、これまで通りに、大事になさればいい。年上のその方が、貴女を守り、きっと好ましい方向へ導いてくれますよ。それに、貴女自身、何を望まなければ、最後までお二人の時間を大切にできるのか、もうすでに、ご存じなのでしょう?」
無表情な藍色の瞳が、じっと美紗を、見据えていた。
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