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「ずいぶんお疲れじゃない? 休み、まだ取ってなかったんだよね? 来週あたり、バーンと休んでリフレッシュしてきたら? 実家でぼーっとするだけで、だいぶ違うよ」
「ダメだぞっ! 来週は俺が休むんだからっ!」
間髪入れず、窓際に座る松永が立ち上がらんばかりの大声で割り込んで来た。彼の斜め前に机を構える宮崎は、わずかに後ろにのけぞりながら、銀縁眼鏡を右手でかけ直した。
「松永2佐、先週は鈴置さんに『一週間ダーっと休んでいい』とか言ってませんでした?」
「事前調整なしでそんなに休まれてたまるか!」
普段にもまして静かな部屋に松永の声が響いたが、宮崎と小坂は全く動じず、「ケチな上司だなあ」などと茶化して笑い合った。
「来週は、まだ片桐がCS(空自の指揮幕僚課程)の試験でいないし、週の半ばには高峰3佐が出張の予定だから、うちのシマ、人があまりいないんだよ。盆明けになると、大抵、上の連中は用もないのに何か報告しろと言ってきて、くだらん仕事も増えるし」
「人手が足りなくなったら、休暇中の直轄班長を呼び出します」
「ふざけんな!」
松永は喚きながら机を叩いた。その本気とも冗談ともつかないリアクションに、部下二人はますます派手な笑い声を上げる。
「全く。せっかく片桐がいないのに、ちっとも静かにならんな、うちの『シマ』はっ」
「賑やかなのが取り柄ですからね」
「静かになっちゃあ、落ち着かんでしょう、ねえ、鈴置さん」
妙なところで小坂に同意を求められた美紗は、相槌に困って目をしばたたかせた。
「あの、私は、大丈夫です。お休みは今月末と九月にいただくことになってますから……」
「目の下、クマできてるよ」
小坂は、小麦色になった顔に白い歯を見せて、自身の目元に人差し指を当てた。
品のない囁き声を聞き逃さなかった松永は、ちろりと美紗の顔を見た。イガグリ頭に相応しい荒々しい顔つきが、すうっと気遣わしげなそれに変わる。
「明日休め」
「本当に、大丈夫ですから」
美紗が言い終わらないうちに、松永は机の引き出しから三文判を取り出した。
「来週、丸々一週間休まれたら、真面目に困るんだ。明日と土日の三日間でしっかり休んで、復活しといてくれ」
宮崎と小坂の手を経由して、直轄班長の印鑑が美紗の机に置かれた。仕方なく、美紗は四度目のため息をついて、休暇申請の手続き書類を書いた。
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