2-2 噂のカウンターパート 

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     ******  「いっとうくうさ? それが日垣さんの役職?」  征は、その言葉を初めて聞いたと言って、藍色の目をくるりと動かした。 「階級のひとつです。あまり一般的な言葉じゃないかもしれないですね。大佐に相当するんですけど……」 「大佐? へえ。日垣さん、なんかすごいんだ! アフリカのどっかで、なんたら大佐って人の国がありましたよね。あ、でもその人、殺されちゃったんでしたっけ?」  征は、そこそこ国際情勢を承知しているようだった。しかし、肝心の部分の認識が全く的外れだ。 「その『大佐』とはちょっと違いますけど……」  美紗は、少し困った顔で、自衛隊独特の階級について説明した。  米軍など海外の軍隊では、佐官は下から「少佐」「中佐」「大佐」と称されるが、自衛隊の場合は、それぞれ「3佐(さんさ)」「()()」「1佐(いっさ)」と呼称される。尉官なら、同様に、少尉は3尉(さんい)、中尉は()()、大尉が1尉(いちい)に相当する。  正式には、陸海空それぞれの所属を合わせて明示し「1等空佐」などと四文字で表記されるが、日常の会話で階級を持つ個人に言及する時は、より短い「1佐」などを敬称代わりに使うのが通例となっていた。 「じゃあ、日垣さんは、職場では『ひがきいっさ』って呼ばれてるんですか?」  美紗が頷くと、征は、ますます興味津々といった顔で、目をくるくるとさせた。 「なんか面白いなあ。じゃあ、『1佐』という階級の人で、苗字が小林さんだったらどうなるんです?」 「小林(こばやし)1佐(いっさ)になりますね」 「あは、俳句でも詠んでそうな感じ」  征は「古池や~」と口走り、 「あ、これ、小林一茶じゃなかったですね」  と、一人で声を立てて笑った。その屈託のない朗らかな顔に、美紗もクスリと笑みをこぼした。  直轄チームも、いつも、こんな冗談ばかりが飛び交うところだった。そこに配属されるきっかけをくれたのが、1等空佐の日垣(ひがき)貴仁(たかひと)だった。      ******
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