2-3 第1部長の提案 

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 しばらくして美紗が顔を上げると、直轄ジマの一同は一斉に注目した。美紗はしどろもどろになりながら、自分の思うところを話した。 「背景事情の解説内容が、最後の『分析』の部分にほとんど反映されていないように感じます。所見のところで、前半の説明と一致しない箇所もあるので、結論が矛盾しているように見えるというか……」  第1部長が栗毛色の髪をかき上げて苦笑を漏らすと同時に、片桐を除くチームの面々がクスクスと笑い出した。 「それ、僕の書いたやつ……!」  片桐が立ち上がって美紗から書類を奪い取った。 「そうだ」  美紗からむくれ顔の片桐に視線を移した第1部長は、急に厳しい顔になった。 「前にも言っただろ。分析と結論を主観で書くな。肝心なところに自分の感想を書いてどうする。素人さんにも一目瞭然の駄文だぞ」  片桐の向かいに座る富澤が、太い一文字形の眉をひそめ、ぼそぼそと美紗に耳打ちした。 「片桐1尉ね、今度、(シー)(エス)(空自の指揮幕僚課程)受ける予定なんだ。論述試験に備えて、空同士のよしみで日垣1佐が仕事と指導を兼ねていろいろ彼に書かせてるんだけど、今のところ、あんまり指導の甲斐がないみたいで」  美紗は、悪いことを言ってしまったと困惑顔になった。 「そうだ、片桐。お前、彼女に文書指導してもらったらどうだ。飲み込みの悪い奴を手とり足とり指導するほど1部長は暇じゃないからな」  比留川の痛烈な嫌味に、「直轄ジマ」の一同はゲラゲラと笑った。美紗は一人、冷や汗をかきながら、気の毒そうに片桐のほうをちらりと見た。しかし、当人は全く気にしていない様子で、「是非! お願いしまあす!」と大仰に頭を下げた。  直轄チームの面々が爆笑すると、少し離れた所に位置する会計課のほうから怒鳴り声が聞こえてきた。 「直轄ジマ! さっきからうるさい!」  第1部長は、美紗と先任の松永3等陸佐を部長室に招き入れた。大きな執務机の前にあるソファをすすめられた美紗は、松永に促されて、奥の側にちょこんと座った。  高級幹部の個室に入るのも、1佐の階級を付けた人間と差し向かいで話すのも、初めてだ。元からの童顔が露骨に不安そうな表情を浮かべ、いよいよ頼りなさそうになった。 「自己紹介がまだだったね。統合情報局第1部長の日垣貴仁です」  日垣は、耳に心地よい低い声で名乗ると、美紗の真向いに座った。斜めに流した前髪が、端正な顔立ちに優しげな印象を与えている。  美紗は、厳めしい役職名から想像するイメージとはあまりにかけ離れた雰囲気の相手にしばし戸惑い、それから慌てて挨拶を返した。 「鈴置美紗と申します。あの……いつも、お騒がせしてます」  緊張しすぎて「お世話になっております」と言うべきところを間違えた。隣に座っていた松永がイガグリ頭を掻いて苦笑いしたが、日垣は気に留めず本題に入った。
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