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「ところがさあ、その問題児が、実は空将補(空軍少将相当)サマの親族でね。後で、日垣1佐とそのおエラさんが大喧嘩になったんだって。……という説明で合ってる?」
宮崎に肩を叩かれた富澤は、角ばった顔を不愉快そうに歪めて頷いた。
「あの一件では、日垣1佐には本当に申し訳ないことしたよ。将官相手に、戦わせてしまったようなもんだから」
統合情報局を含む統合機関に勤務する制服組の人員は、陸海空の各自衛隊から提供される。人事権はあくまで出身元の各幕僚監部が握っており、統合機関に配属された人間は、数年で再び各自衛隊組織へと戻っていくのが通例だ。
したがって、出身元の将官と対立するのは、日垣のキャリア上、当然好ましいことではなかった。
「別に富さん一人の問題じゃなかったんだし」
富澤を「富さん」と親しげに呼んだ宮崎は、美紗から憂い顔の3等陸佐へと視線を移した。
「うちの部長は、無能なコネ付き野郎は許さないタチだから、どうあっても同じ結末になったんじゃない? それに、あのヒトの信望者は部内にたくさんいるから、大丈夫だよ」
宮崎は、富澤のクリーム色の開襟シャツの襟をつつくと、つまんないこと気にしちゃだめよ、とまたオネエ言葉になった。二人は、制服と背広という異なる立場ながら、年が近いせいか、かなり気心知れた仲のようだった。
「結局、問題児を追い出すために、日垣1佐は統合情報局の副局長まで引っ張り出したらしいんだ。副局長、見たことある? 結構お腹出てる恵比須顔の人だけど」
美紗は、遠目に一度だけ見た統合情報局副局長の姿を思い出した。
宮崎の表現するとおり典型的なメタボ体形の副局長は、内局の審議官を兼任する文官で、いわゆる「高級官僚」と位置付けられる人物だった。防衛省の内外で、絶大な権限と幅広い人脈を持っている。
「内局は、三自衛隊の将官人事を握ってるから、制服のおエラ方からすれば、あんまり喧嘩したくない相手なわけ。平たく言うと、日垣1佐が、内局経由で空幕(航空幕僚監部)に圧力かけちゃったんだね」
妙に楽しそうに話す宮崎は、「あの人も涼しい顔して結構エグイのよ」と言いながら、わざとらしく手を口元に当てた。
キャリア官僚が苛烈な出世レースを繰り広げる内局で十年余の実績を積んできた彼にとっては、この手のドロ臭い話は日常茶飯事のことらしい。必要な時にあらゆる手段を講じて目的を達成するのは、管理者には必須の「芸当」だ、と物知り顔で語った。
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