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3-4 初めての仕事
米国のカウンターパートを迎えて行われている情報交換会議に入ってほしい、と直轄班長の比留川2等海佐から唐突に言われた美紗は、立ち上がって、きょとんとした顔を彼に向けた。
比留川は、「議事録を作ってもらいたいんだが……」と言いかけ、白黒のチェック柄のワンピースを着る小柄な女性職員を、まじまじと見た。そのふわりとしたシルエットが、元からの童顔にますます頼りなさそうな印象を加えている。
比留川は軽く咳払いをすると、早口で仕事の内容を説明した。
「日垣1佐が、午後一のセッションだけ、メモ取りにあんたを入れてほしいと言ってた。時間の半分はたぶん双方のブリーフィングだから、それは基本的には聞いてるだけでいい。すべて配布資料があるらしいし、必要に思うことだけ適宜記録してくれ。質疑応答の部分は、できる限り詳細に頼む。後で議事録にしてもらって、関係各所に回すことになるから。高峰にもあんたが責任もって申し送ってくれ」
美紗は不安な気持ちを正直に顔に出した。
統合情報局に来てから数回ほど、先任の松永3等陸佐に連れられて在日米軍のカウンターパートとの会議に同席したことはあったが、いずれも研修に毛の生えたような補佐業務だった。
今回は完全に一人だ。しかも、問題のセッションの議題は、高峰3等陸佐の担当するテロ問題だった。美紗は、これまでこの分野には全く接したことがない。
「部長の『ご指名』じゃ、断れないよ」
内局部員の宮崎が、銀縁眼鏡の下でニヤリと笑った。
「それ、絶対、日垣1佐の前で言うなよ。あの人、そういう冗談、大っ嫌いなんだから」
比留川は、丸い顔をしかめて宮崎を睨みつけると、美紗のほうに向き直り、話を続けた。
「松永から聞いてる限りじゃ、あんたなら今日の仕事は支障なくできる。日垣1佐もそう思うからあんたに任せると言ったんだろ」
普段、何かと辛口の発言が多い比留川が、珍しく言葉を選んでいた。見るからに半人前といった雰囲気の美紗を相手に、管理者の彼のほうもやや落ち着かないらしい。
「あんたの出番は第五セッションってやつだ。それが終わったら、次のセッション終了まで、会議場の近くの別室で待機しててくれ。場所は行けば分かる。事業企画課の連中が近くにいるはずだから、何かあったら彼らに聞けばいい」
事業企画課は、国内外の情報機関との折衝や人事交流などに一義的に携わる部署であり、海外関係機関を招いた大がかりな会議では、ロジ面(管理調整)を一手に取り仕切っていた。
直轄チームと同じ第1部にあるが、美紗がこの課に属する人間と話す機会は、これまでのところ全くなかった。そのことも、ますます美紗を心細くした。
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