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「待っている間は、何をすればよろしいんですか?」
「特に仕事はないんだ。単にクリアランスの問題でな。あんたはまだ会議場のある棟には自由に出入りできないから、1部長と一緒に行動してもらうことになる。第五、第六セッションは、基本ぶっ続けでやる予定になってるから、あんたの出番が終わっても、日垣1佐が身動き取れないんだよ」
件の情報交換会議が行われる場所は、美紗の勤務する部署が入る棟の隣の建物の地下階にあった。そこは、特に秘区分の高いエリアに指定されていて、自由に立ち入ることのできる人間は非常に限られていた。
常駐者以外は、統合情報局所属の職員であっても、事前申請をしなければ入ることが許されない。
二か月前に情報局に異動したばかりの美紗は、まだそのクリアランスすら取得していなかった。このため、上官である第1部長の便宜で、本来立ち入り不可のエリアに「監視者付」で入るという体裁をとることになったらしい。
「まあ、今うちに来てる海外の『お客さん』と同じ扱いだな。不愉快だろうが、そういうところは、うちは融通きかないから」
すまなそうに眉をひそめる比留川に、美紗は「全然構いません」と笑顔で答えた。新しい仕事を一つ任せてもらえたことが、単純に嬉しかった。
「二つ目のセッションでは、私にできることはないですか? ただ待っているだけでしたら何か……」
「いや、二つ目のには出なくていい。日垣1佐がどうにかするだろ?」
比留川は、自分の席に戻ると、足元のキャビネットの中から紙の束をごそっと出した。
「うちから出すのはこれだ。昨日、高峰が全部準備しててくれて良かったよ。二十部あるから、名札が置いてある席に全部配布してくれ。この内容に沿って、日垣1佐が冒頭のブリーフィングをする」
そして、書類の山の上に、当該会議の関連資料とUSBメモリを置いた。
「会議の概要はこれを見ろ。USBは議事録作成用だ。待ち時間に作っちまえば後が楽だろ。フォーマットはこの中に入ってる。パソコンは別室に置いてあるのを使えるはずだ。作成したものは向こうの端末には残すな。あんたの作る議事録は『秘』指定になるからな」
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