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「ホットカクテルでもいかがですか。今日は一月にしてはずいぶん暖かい陽気でしたけど、この時間に上着もなしで外にずっといたんじゃ、体がすっかり冷え切っているでしょ?」
つい先ほどとはガラリと違う低い声は、威圧感さえ帯びていた。この男がいつ自分を追い越して先にビルの中に入ったのか、美紗には全く分からなかった。この期に及んで怖いものなどないはずなのに、その場に座り込んでしまいそうなほど体が震える。
「それとも思い出のカクテルがいい? 死にたいほど沈んだ気分の時にいきなりマティーニじゃ、悪酔いすると思うけどね」
突然ぞんざいな口をきいたバーテンダーの顔を、美紗は驚愕の表情で見上げた。
この人は、どこまで知っているの?
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