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米側のジョークに、和やかな笑いが起こった。続いて、明瞭なネイティブの英語が喋り始めた。
「こちらからも、一番奥の一名のみ、改めて…」
友好的な雰囲気で話す「お客」は、一人の名前を上げると、
「彼の本来の所属はCIAです」
と、さらりと付け加えた。
スパイ映画によく登場するCIA(米中央情報局)は、政治的影響力を行使する米国の諜報機関で、軍事分野の情報活動に特化した軍の情報組織とは一線を画している。
美紗が働く統合情報局は後者に属し、そのカウンターパートはあくまで、米国防省の管轄下にある国防情報局だった。政治色の強いCIAとの付き合いはあり得ない。少なくとも表向きはそういうことになっていた。
美紗は、ようやく「次のセッションには出なくていい」というようなことを言っていた比留川の真意に気付いた。「出なくていい」のではなく、出てはならなかったのだ。
それならそうと、なぜはっきり言ってくれなかったのだろうか。そういう位置付けの会議であるということすら、秘匿する必要があったのか。
どうしよう……
中身の話が始まる前に外に出たほうがよさそうなことだけは分かった。しかし、参加者の中にCIAの人間がいることを、すでに聞いてしまっている。誰の目にも留まらずに部屋の外に出る方法を考えたほうがいいかもしれない。
美紗は、書類ケースをしっかり抱きかかえ、右手にUSBメモリを握りしめた。テーブルの下から静かに這い出て、背をかがめたまま、暗い部屋の中を出口のほうへと移動する。
その合間にも、日垣は、セッションの概要説明を始めた。先ほどと同じく、国際テロ組織に関する事柄がテーマだったが、話の焦点は、自国内に浸透しつつあるテロ勢力への対処という点に置かれているようだった。
国内治安に関する問題は、海外の犯罪組織が関与するものであっても、原則的には警察の管轄である。そのような話を、なぜ防衛省の一機関である統合情報局が、海外の情報機関と討議しなければならないのか……。
不思議に思いつつも、美紗は、ドアに一番近いテーブルの傍までたどり着くと、キャスター付きの大きな椅子を僅かに動かして、そのテーブルの下に身を隠した。
美紗の潜む場所のひとつ隣のテーブルからモニター側にかけて、日本側の出席者が四人ほど座っている。人目に付かずに外に出るのは難しそうだった。なにより、部屋の一同に気付かれずにドアを開閉するのは、まず不可能だ。
会議が終わるのを待つしかない。美紗は観念して身を丸くした。
急に、日垣の声が明瞭に聞こえた。
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