3-5 極秘会議 

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 前髪に何かが押し当てられる感触がした。  美紗がわずかに顔を上げると、目の前に小さな紙切れが差し出されていた。「終わるまでそこにいろ」と走り書きがしてあるのが目に入った。  空席だと思っていたところに、航空自衛隊の制服を着た人間が座っていた。  テーブルの下から少しだけ顔を出して見上げると、第1部長の日垣が、険しい顔つきで美紗を見下ろしていた。  危うく上官の名を呼びそうになる。美紗の口を塞ぐように手を広げてそれを制した日垣は、身をかがめて何か言おうとした。 「……以上が、現在確認できている状況です。ここまでで、何かご質問なりご指摘がありましたら、どうぞ」  対テロ連絡準備室長の話が終わると同時に、部屋の照明がつけられた。  日垣は、素早く身を起こしながら、美紗の頭をテーブルの下に押し戻した。  髪に触れる大きな手から、強い緊張感が伝わってくる。しかし、他の出席者たちの質疑応答の中に時折割って入る彼の声は、前のセッションでブリーフィングをしていた時と同じく、極めて平静だった。  やがて、二国間の議論は、軍と公安の協力関係と線引きのあり方について、さらには、謀略工作を念頭に置いたカウンターインテリジェンスの可能性へと移っていった。  そのどちらも、防衛省内で討議するには極めて異質な話題だった。自衛隊は、国内の警察権に関与することも、謀略工作を行うことも、法的に許されていないからだ。  美紗は、日垣の足元で小さな身をいっそう縮め、再び耳をふさいだ。秘匿性の高い討議内容よりも、自分の姿を認めながら何事もなかったかのように会議を進めていく上官の声が恐ろしかった。  この人は、きっと、こういうことに慣れている。  偽りを語り、人を欺くことに、慣れている……。  十名ほどの人間が一斉に席から立ち上がる気配がした。ようやく、セッションが終わったようだった。  美紗はゆっくりと両手を耳から離した。絨毯敷きの床の上を歩く静かな足音が近づいてくる。  予定では確か、次のセッションとの間に二十分ほどの休憩が挟まれることになっていた。皆、部屋の外に出て一服するつもりなのだろう。  美紗は、床に置いていた書類ケースを再び抱えると、テーブルの天板と幕板が作る影の中に潜み、息を殺した。  椅子の脚の間から、人の足だけが見える。目の前にいる濃紺のスラックスが日垣であることだけは分かった。出入り口にほど近いテーブルの下に潜む美紗の姿を、他の人間の視線から隠すかのように、椅子のすぐ脇に立っている。 「カーネル・ヒガキ。少しいいですか」  米国海軍の白い制服が立ち止まった。
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