3-6 第1部長の正体 

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 やがて、二人は階段へとたどり着いた。地下六階の階段入り口は、しんと静まり返っていた。空調の音だけがやけに低く響く。  自分たちの他に階段を上り下りする人間がいないのを確認すると、日垣は速足で階段を上り始めた。仕方なく、美紗も彼の後について上った。  二人分の人間の靴音が、不安げにこだました。 5af4f055-ceb1-47b5-ae22-ee93c512b4eb  地下二階下の踊り場まできたところで、日垣は突然、美紗のほうに振り返った。 「どういうつもりだ」  眉を寄せた険しい顔が、厳しい口調で尋ねる。 「第五セッションが終わったら、すぐに部屋を出ることになっていたはずだ。比留川から聞いていなかったのか」  美紗は何も答えられなかった。三階半分を駆けるように上らされてかなり息切れしていた。何より、普段とは全く違う上官の強圧的な態度に、完全に気が動転してしまった。 「いや、聞いてなかった、というのは不自然だな。私は、第五セッションの後、地域担当部の人間が全員エレベーターに乗るのを確認してから、対テロ連絡準備室に電話を入れて会議場に戻った。その時、君は、比留川の指示どおり、確かに部屋にいなかった。正確には、私には見えないところにいたわけだ。何をしていた」 「USBメモリを、落として、それを……探していて……」  絞り出すような声で答える美紗に、日垣はさらに詰問する。 「USB? なぜそんなものを持ってくるんだ。中身は?」 「比留川2佐に……言われたんです。待ち時間に議事録を作って、USBメモリに保存して持ってくるようにと……。中はまだ空です」 「空のUSBを落として、それを探していたら部屋を出そびれた、と言うのか。もう少しそれらしい嘘を考えたらどうだ」 「嘘……?」  美紗は驚いて顔を上げた。切れ長の目が鋭く美紗を睨んでいた。 「USBに偽装したレコーダー、というのが本当のところじゃないのか」  USBメモリ程度の大きさの録音機が存在することさえ知らない。美紗はただ首を横に振り、震えながら日垣の言葉を否定した。  しかし、上官の冷たい声は、なおも辛辣な言葉を返してきた。
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