8-10 揺らぐ夜景

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「やっぱり、先にお料理教室に行かないと、ダメかな……」 「えっ?」 「本当はお料理、得意じゃないから」 「いや、そういう意味では」  慌てる日垣を遮るように、美紗はおどけた調子で喋り続けた。 「私、大学に入るまで、ご飯を作ったことほとんどなかったんです。母はそういうこと教えてくれる人じゃなかったし……。寮で友達にいろいろ教えてもらって、それでやっと最低限のことができるようになって。だから、よく考えたら、いま急に何か作ろうと思っても、日垣さんに美味しいって言ってもらえそうなものは、とても無理です。きっと」 「美紗……」  日垣は思わず相好を崩し、前髪をかき上げた。 「初めてこの店に来たのは、もう二年以上前になるのか……。あの時と比べると、何というか、形勢逆転という感じだね」  ほんのりと頬を染めた童顔が、困ったようにはにかむ。その微笑みを彼は愛おしそうに見つめた。  己をどこまでも慕う二十歳も年下の女の気遣いを拒絶するには、日垣貴仁は疲れ過ぎていた。 *次節「8-11 あの人の部屋」は、全年齢版と大人向け版に分かれる予定です。更新までしばらく時間がかかってしまいますが、どうかご容赦くださいませm(_ _)m💦準備が整いましたらこちらでお知らせいたします。
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