第1章

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【Faith to Face.】 『バイバイ、リア。大好きだったよ』  僕が変わり果てた彼女に贈った最後の言葉、初めて口に出した愛の言葉。その言葉が今も僕の心を苛む。  もっと早く言うべきだったんじゃないだろうか、もっと良い言葉があったんじゃないだろうか。後悔が尽きる事は無い。  僕には大好きな子がいた。きっとその子も僕の事が大好きだった。僕は毎日のように彼女の家に行って一緒に遊んだ。いつまでも続くと思っていた幸せな日々。  その日々は僕らが住むアイラム村に起きた一つの奇妙な事件によって呆気無く終わりを迎えた。 『アイラム村魔女襲撃事件』  世間を騒がした事件の全容は、村の人を含めても誰も知らない。  知らないところも、知っていても都合が悪いところは、全て魔女の仕業ということになった。 きっと僕だけが知っている彼女の最後の姿。どうしても村の人たちにはその事を言えなかった。  どうしてこうなってしまったんだろう。彼女の身に何が起きたのだろう。どうして、僕はその事件が起こるその時にいなかったのだろう。  月の光も届かぬ深い静寂と闇が支配する森で、一匹の吸血コウモリが飛んでいた。  飛ぶ姿はフラフラとしていて力無い。今にも地面に墜ちてしまうのでは無いかと感じさせるほど酷く痩せている。何日も吸血をしていないことは目に見えて明らかだった。  この痩せこけたコウモリの行動が全ての始まりであることを知る者はいない。  本来糧となるべき兎や鳥などの動物は森のあちこちで眠っていて簡単に吸血を行うことが出来る。しかしこのコウモリはそれらには目も向けずに飛んでいる。  このコウモリが空腹であることに間違いはない。群れを為してはいないが一匹で飛んでいるのは間違いなく食事を行う為である。しかし求めている物は動物の血では無い。  人間の血だった。  五日前の夕方頃のことである。  巣で他の仲間より早く目を覚ましたこのコウモリは空腹を覚え一匹だけで森を彷徨っていた。  すると小さな白い花の咲く開けた場所に出た。そこでは人間の男の子が一人、四つん這いになって花を摘んでいた。
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