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お冷やを持って戻ってみると校長は居らず、千佳子の座っていた座布団に酔っぱらいと化した中年ヒラ古文教師の多摩が座っていた。多摩はあぐらをかき、野口をにらんでいる。まさに一言もの申すといった様子だ。
野口は居心地悪そうにしている。目を合わせたら喧嘩を売られるのではないかと警戒しているようだ。
手酌で日本酒をのんでいる多摩は、校長がいないのをいいことに野口に絡み始めた。なんとかしてあげたいものの、多摩は千佳子の先輩である。意見するなどもってのほかだった。
「野口くん……だっけ?校長の甥だって?」
酔った多摩は野口に話しかけ始めた。
「あ、はい」
野口は最低限の返事しかしない。
「校長の甥でもな、ここでは一番下っ端なんだぞ」
「はい、ご指導宜しくお願いします」
野口は定型文とおぼしき言葉とともに、頭を下げた。
「今は知らんが、お前みたいの昔なら縁故でもなければ雇われんわ。」
根拠はないが、多摩は自信満々に言い始めた。
「私のような若輩者が、このような歴史ある学校の教鞭に立てるのは、伯父である校長先生のお陰です。本当に感謝しています」
「なんだその口のきき方は!」
多摩は激昂した。もう野口の話は聞いてないようだ。
多摩の反応は支離滅裂である。とにかく怒りたいのだろう、その場にいた者全員がそう感じていた。
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