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「あの……教員住宅なんですが……」
「あ、はい」
「本当にすみませんでした。なにぶんお金もないもので」
「いや、はい。もう引っ越せましたしお気になさらず!」
千佳子は前の腹立ちが半分くらいになっていた。今の暮らしが安定しているからである。
「今は助かっているんです。何より家賃が安くて」
「本当、安くて広いですよね」
千佳子はしみじみと言った。
「あの縁側、西日で痛んでいるんですけどのんびりするにはちょうどいいんです」
千佳子は縁側の夕焼けを眺めていたのを思い出した。
「あの縁側、僕も一目で気に入りました」
「でしょ?」
野口が何故か苦笑している。
「え?どうしました?」
「先生……なんか可愛いですね」
「は?」
「いつも素っ気ないから……つい。生意気言ってすみません」
千佳子は二の句が継げなかった。
思わず赤面した。
アラフォーになって初めて、可愛いと言われたことに反応したのだ。
「ちょっと失礼」
そう言って、千佳子はその場を離れた。
赤面した顔を冷ましに廊下に出た。
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