1  私の幸せはひどく遠い所にある

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「なんでしょう」 「……先生、教員住宅に入って何年になりますか」 「多分10年は堅いですね」 「そろそろ、引っ越しとか考えておられませんか」 「いや、全く」 「しかしね、今回新採用の先生が来るんですよ。新卒で家族持ち」 教頭は何故か「新卒で家族持ち」の部分だけ耳打ちした。個人情報にあたるからだろうか。 「! ! ?」 新採用までは良かった。 新卒までも良かった。 しかし、家族持ちとなると話が変わる。 この高校の教員住宅は、家族持ちが優先なのだ。 「今までは希望される先生がおられなかったので良かったんですけどね、その先生が教員住宅を希望されてまして、できたら今月いっぱいで退去願いたいんです」 そこまで言うと、教頭は困ったように頭をかいて眼鏡をかけた。 そしてまた耳打ちした。 「この先生、新卒なんですけど学生結婚されていて、子どもが2人おられます」 「! ! ?」 子ども2人ときいて、卒倒しそうだった。 新卒だとせいぜい24から25歳だろう。 そんな若者に2人子どもがいる、千佳子には遠い世界の話だった。
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