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「まあ、そういうわけだから」
「……なんとかなりませんか?」
「賃貸なら住宅手当がでますから。おひとりなんですし……ね。宜しくおねがいします」
そう言われてしまうと、どうしようもなかった。
千佳子は、その人はこれから採用なんだし、その言葉を相手に言って欲しいと思った。「おひとり」は除いて。
「はい」
返事をして、席に戻った。
戻るが早いか、隣りの席の高野がこそこそと話しかけてきた。
「佐伯先生、お引っ越されるんですか?」
「……追い出されるんです」
「今月一杯だなんてひどい話ですよね。急すぎますよ」
千佳子は黙って高野の顔をじっと見た。
高野は物理担当の若手の教員で淡いピンクのスーツに今日も完璧なメイクをしている。
興味津々といった様子で、どう見ても面白がっている顔だ。
「ひどいってんなら、どうにかしてよ」
千佳子は、のど元までこの言葉が出かかった。
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