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「……!」
まるで空気のような希薄な気配に、だがやがては少女が静かに振り返る。
背後を返り見ながらも、そっとみずからの手を左右の目元にやって、そこにかすかに光るものを拭い去(ぬぐい さ)ったか…?
大粒な瞳をいくたびか瞬(まばた)かせて、そこにあったはず憂いを消し去る少女は、ただちに強い眼差(まなざ)しで気丈な言葉を発した。
「失礼ね? せめてノックくらいはしたらどうなの? 仮(かり)にもこうしてレディがいる部屋なのだから…!」
責めるような目つきと共に尖(とが)った顎(あご)を上向かせ、おのれより背の高くずっと大柄な来訪者にも気後れすまいと勝ち気に見上げるのだ。
だが相手はさして気にしたふうでもなくて、かすかにその太い首に据(す)えた冷たく無表情な丸顔を傾げさせた。
それから低い声音で、おまけ無機質な抑揚(トーン)で応じてくれる。
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