秋色メーデー

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「一組! こっちに集合ー!!」 秋晴れの山に、担任が吹いた笛の音が響いた。 その音を合図に、三々五々散り散りになって歩いていた生徒達が一ヶ所に集まり出す。 シャリ、シャリ、と足を運ぶ度に落ち葉が鳴った。 学校の裏山は、今年も黄色やオレンジや赤で鮮やかに賑わっていて、ここから見下ろす私達の街は、紅葉のフレームに縁取られた一枚の絵のようだ。 私は一年ぶりの眺めを見渡すと、澄んだ空気を体いっぱいに取り込んだ。 今日は、年に一度の写生会。 中学三年生の私達には最後の写生会だ。 入学当初、お弁当持参でのお絵かき会なんて小学生じゃあるまいし、と皆大人ぶって言っていたけれどいざ最後となると寂しいものだ。 去年と同じ場所で去年と同じものを描いている筈なのに、出来上がると違って見えるのだから不思議だ。 絵の楽しさを、教えてくれた子がいる。 ーー今年も一緒に描こうって。 「春、あっち行くよ!」 「う、うん……」 キョロキョロしている私の手を最近一緒にいる子が引いてきて、半ば引きずられるようにして場を移動した。
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