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生徒達はそれぞれが見つけたベストポジションから、思い思いに紅葉を紙に写していく。
私は一年の途中から美術部に所属していて、画力は入部前と比べ格段に上がっていた。
だけど、今日は筆が重い。
せっかくの綺麗な空気なのに、吸い込んでも吸い込んでも体は浄化されず、萎れた風船の様に抜けていくばかりだ。
それは、隣に居るべき人がいないから。
ーー
私は最近、四人グループの中に入っている。
私以外の子は絵よりもおしゃべりに夢中だし、同じ様にほとんどの生徒はいつもと違う雰囲気と、青空の下で食べるお弁当を目当てにしていた。
「春、どうかした?」
筆を止めて尚もキョロキョロしている私に、隣の子が気づいた。
「もしかして、笹原?」
そう言った彼女の目が、きらりと光った気がする。
「ううん……」
私は否定の言葉を口にすると、まだまだ白が目立つ紙に目を落とした。
笹原秋ちゃん。
私を美術部に誘ってくれた。
とっても絵が上手い秋ちゃん。
今年も一緒に描こうね、と約束していた。
それなのに。
裏切ったのは、私だ。
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