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去年、私と秋ちゃんは並んでこの場所に座っていた。
周りはやっぱりおしゃべりに夢中だったけれど、私達はひたすら手を動かしていた。
その間にポツ、ポツ、とこぼれる秋ちゃんの言葉。
「私、秋って嫌い。雪に閉ざされる冬がもうすぐ来るぞーって思うと、日曜日の夕方がずっと続くみたいに憂鬱になるの」
「秋生まれだから秋って、おじいちゃん単純すぎじゃない? よりにもよって、秋だなんて。春って名前がうらやましいよ」
「でもね、秋の、この色だけは大好き」
「黄色や赤が絶妙に折り重なっていて、風景の中で一番きれいだと思うな」
「絵は得意な方なのに、どうしても満足いくようには塗れないの」
「だからね、毎年来たい。春ちゃん、来年も一緒にここで描こうね」
絵を教えてくれた。
名前を褒めてくれた。
来年の約束をしてくれた。
全部、覚えてる。
それなのに。
隣に秋ちゃんはいない。
私は、私が大嫌いだ。
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