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「はぁっ、はぁっ……」
秋ちゃんはいなかった。
さっきまではいたのだと思う。
痕跡だけ、残っていた。
秋ちゃんが選んだのは街並みなんて少しも見えない奥まった暗い場所で、木々の間から辛うじて光が入ってくるような所だった。
そこには一人分の小さなレジャーシートが敷かれていて、食べかけのお弁当箱とスケッチブックが置きざりにされていた。
残された物に、そっと手を伸ばす。
スケッチブックを開くと、その中は秋の色でいっぱいだった。
「……これ……」
絵の具じゃない。
ごくごく小さく千切った落ち葉をご飯粒で貼った貼り絵だった。
お弁当箱にはおかずだけが残っている。
それは、確かに普通の絵よりは粗削りだけど、とても貼り絵に見えないほどに細かくて、一目で何なのかが分かった。
「秋ちゃん……」
ボロっと、涙がこぼれた。
「秋ちゃん……っ」
そこにあったのは、去年、二人で見た風景そのままだった。
もちろんこんな場所からこの景色は見えない。
秋ちゃんが表現したいと言っていた色とりどりがそこにはあったのに。
「秋ちゃん、ごめんっ……」
私はその中に、秋ちゃんの助けを呼ぶ声を聞いたんだ。
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