今宮とツン女。

　そう参ったな的に赤い自転車の女の背中を眉を寄せて見ているってフラグは勿論ツン女と仲が良い訳じゃねえよって意味。同じクラスのヤツって基本的に教室以外でバッタリ会ったらなんだか嬉しくなっちゃうのに、この女に対してそういう感情は無い。

　邪魔だな………抜かしたい……。ベルなんて鳴らすの格好悪いし喧嘩を売られそうだし。この隙間は抜けるか？　無理かな？　

　最初から『ちょっとゴメンよ、狭いけど先を急ぐので』なんて言うつもりは無い。

　無い！

　だってこいついっつも頭が良いのを鼻に掛けてるし。教室で騒いでいたら『ほんと今宮亮介ってガキ。うるさすぎて本が読めない』ってわざと聞こえる声でボヤいたし。

　性格ワルー！

　そりゃ嬉しくてハイテンションで騒ぎすぎた俺も悪かったけどさ。まぶたを半開きにして明らかに汚物を見るような目を向けてさ。クールビューティーを通り越して南極ブリザード女だよ。

　しかも瞬間冷却発言はこれだけでは無い。

『今宮ってバカ？　そんな拭き方で掃除してるって言わないから』

『ねえ、黒板消すならちゃんと消してよ。今宮の消し方が１番汚い。小学生みたい』

『ちょっと今宮、袖に米粒付けてる。バカが増してる』

『はあー……、今宮は良いわね。なーんにも考えてなくて人生適当に生きていて』

　なっがい髪の毛を手先で払いながらフンって顔をして……バカバカバカバカ何度も何度も……マジムカつくーーッッ！

　俺さ、何にもお前にしてないやん！　そこまで俺を毛嫌いする理由って何？　ちょっと美人だからってさ、面と向かって俺をバカにしてなんなんだよお前は！

　きっとコイツの親父はイエティで母親はメデューサに違いない。凍りつく程寒くてネチネチした家庭で育ったんだ。間違いない。

　前を走る長い髪の背中を見てまた溜め息。なんで朝っぱらから重大インシデント。ついてない。

　駐輪場は校舎の裏手にある。今通っている校門から校舎玄関口までの道は広いけど、自転車は建物脇と樹木の間の狭い道を通りグルリと裏まで回り込まなければならない。

　まだツンが乗ってる自転車とは距離があるけど所詮は男子女子。あっという間に距離が縮んだ。