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今はかなり早い時間だから周りはまだ誰もいない。あんな寂しげな場所でツンと2人きり。やっぱり『おはよー』ぐらいは言わないといけないシチュエーション。でもコイツは無視しそうくね?
それは流石に朝からヘコむ……かなり避けたい。今からダッシュで漕いで小道に入る前に抜き去るか?
いや、そりゃさすがに焦ってる感丸出しでカッコ悪い。
それよりも小道でピッタリと後ろに付いて、わざと側溝の蓋の上を通ってガタガタと音を立てよう。後ろから先を急いでいるチャリが来てるって空気を読んで右側ギリギリに避けてくれるだろう。チャリ族の暗黙の了解ってヤツを発動させる。そしてサッサと抜き去る!
ツンの斜め後ろについた。道の中央を通る彼女の左側、余裕がない隙間の幅に前輪を進入させ、金属製の溝蓋の上を通り酷い音を立てて並びにかかる。
前を向いたままのツン。ゆっくりと自転車1台分の幅が開く。俺はしめたとばかりにスピードを上げた。
徐々に見えてきたツンの左側面の顔。
向かい風と戦うツンの長い髪の毛が木洩れ日の微光を受け、白いフィルターで画像加工をしたかのように柔らかく煌めいていた。身を引き締める温度の風とペダル運動真っ最中がコラボしていて、いつもは冷血に見える白い頬が赤い。
体力的に余裕ではないチャリ漕ぎに上気したほっぺ、いつもキリリと閉じた口元が足りない酸素を求めて開いたまま。
後少しで駐輪場につく喜びからなのか、体力限界で到着する安堵感からなのか。狭い道で並びかけている自転車が俺だと気付かず前を見据え、ゴール間近が余程嬉しいのか大きく開けた口の端を上げて微笑んでいた。
ドキッ。
しっかり者のツンツン女の隙を見た気がした。
なんだよコイツ……学校に到着ってだけなのにそんな顔をして喜んで……。
「ぐわっ!? うわあああーーーッッ!」
「えっ、キャアーーッッ!」
一瞬の出来事だった。
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