今宮とツン女。

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 フッと宙に浮いた自分の身体。強い衝撃の後、側転をしているかのように視界がグルリと渦を巻き、回転の勢いをつけたまま全身を地面に叩きつけた。  コイツを抜き去る時にタイヤが横滑りを……。  彼女と接触する事故を察した俺は咄嗟に握ったハンドルを引き込みながらブロック塀に体当たり、自転車もろとも前転をしながら派手に危険回避をしていた。  見上げた視界に入るのはまだ薄い青色の空と裸になりかけの樹木たち。  やられた。ここは桜並木道。だから滑ったんだ。  ツン女に気を取られすぎていた。通路の端っこの万年日陰ゾーンでジュクジュクしたまま集まっている落ち葉たちをすっかり忘れていた。  こいつらは滑るからってあんなに気をつけて運転をしていたのに! 「イタ……」 「ちょっと! 何をやってんのよ今宮!」  名前を呼ばれ、地面に横たわったまま首だけを捻った。赤い自転車が桜の木の間に倒れてる……ぶつけちゃったのかな、悪い事をした。  ヌチャッと湿っぽい落ち葉布団の上に寝そべる俺。傍でしゃがみ、眉を寄せて見下ろしているツン。  おい、何にも考えずに腰を下ろすなバカ。絶対領域とかその奥とかすっげー迫力。早く起き上がらないと無実の罪で呪いを掛けられそうだ。  両手を付いてゆっくりと上半身を起こす。ピリッとした痛みが走り、反射的に「イタッ」と声が出た。右の手の親指の付け根にちょっと擦り傷……流血ボタボタってレベルじゃなくて助かった。 「ああ……ごめん。佐々木は無事か」 「はあ!?」 「いや、チャリが倒れてるから俺がぶつけて倒したのかなと」 「ぶつかってないわよ!」 「あ、マジ? なら良かった」 「良くないわよ!」  なんでコイツ怒ってんだ?  無事だったしゴメンって素直に謝ってんじゃねーかよ。マジで意味わかんねー。そんなに全身で今宮なんてバカで大嫌いオーラを出さなくてよくなくね?  泥まみれの手とチクンとした心の痛さとで眉間にシワが寄る。右手の傷を上に向けたまま奇跡のハンカチかティッシュが制服のポケットにないかと左手で探ってみたけどやっぱり入ってない。ピンチになった時に母親の教えって大事だったんだと痛感するってのは、やっぱりバカかもしんない。  そんな反省野郎の目の前に現れたのは水色のハンドタオル。眉を寄せ、鋭い目つきで睨み倒しているツンは、フカフカを両手で掴み俺へと差し出していた。
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