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傷口に注意しながらハンドタオルを動かす佐々木は地ベタに座って手当てをしていた。痛がらせまいと手先に集中しソフトタッチを繰り返す女が腰を下ろしている場所は未舗装で土が丸出しの地面。
頭の中で先に進むのを止めていた歯抜けパズルが1個、ピースがガッチリとハマった感覚がする。でも新しく未完成部分が増えた気がするのは何でだろう。
「なあ……もしかして俺、佐々木に嫌われてる訳じゃない?」
「は? こんな時に何言ってんの。バッカじゃない」
水色のハンドタオルを押し付ける強さが増した。俺の汚れた手を拭うフカフカが汚い土色にまみれていく。
如何にも女子アイテムって空気を出していたものを惜しげもなく使っている表情は一生懸命に漕いでいた秘密の顔じゃない。それでも俺の手首を掴んでいる白い手が真っ赤になっているのを見て、ゴール間近で微笑んでいた佐々木よりもデッカい隙を見てしまった気分になった。
「……はははっ」
思わず笑ってしまった。こんな時に笑ったら絶対に怒るってわかっていたけど。
「意味わかんない。ねえ早く手を洗おうよ。バイ菌のせいで手が腫れて試合に出れなくなっても知らないから」
「はいはい」
「何よそれ! ほんっとに今宮って何にも考えてないバカだよね」
「はいはーい」
「ちょっと! ふざけないでちゃんと聞きなさいよ! いっつも誰よりも早く学校に来て真面目にシュートの練習をしているくせに、こんな傷を作っても呑気ってどれだけバカなのよ! ほら、行くわよ!」
顔も手も真っ赤なのは落ち葉で転けたバカな俺に怒っているから?
それともペダル運動の余韻?
でさ、お前なんでこんな早く学校に来たの?
そんなヤボな質問はツンの陰に隠れていたデレ佐々木を見つけたから言わずに内緒にしておきます。
…*…*… 終わり …*…*…
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