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啓士郎に促されて、整列した女どもを仕方なく物色する。
その中でも顔だけは合格点だと思える女に社交辞令で声をかけようとした瞬間、ターゲットがすっと立ち上がった。
何事かと目で追っているうちに、接近してくる女の影。
俺の真後ろで停止すると、意を決した表情で話しかけてきた。
「あのっ、と……隣いいですか?」
真っ直ぐに注がれる熱のこもった眼差し。
その視線の先にいるのは俺……ではなく硬派で有名な啓士郎で。
「隣って言われてもね。」
女に苦笑いを浮かべた後、隣を陣取る俺を見てくる。
……なに?
俺に退けろって言いたいの?
ガタンと鳴らせるだけテーブルを振動させて、愛想の欠片もなく退席する。
女がいた席に腰を下ろしてから、正面に座る啓士郎を睨みつけた。
狙いを定めた女を秒殺で奪われたことが、面白くないのは言うまでもない。
けど、それに加えて……
失恋した俺を慰める目的でここに連れてきたくせに、肝心の俺をほったらかして女とつるむ啓士郎に沸々と昇ってくる苛立ち。
どーせその女とつき合う気なんてないくせに、無駄に紳士ぶって口もとを緩ませるところにまたイラつく。
適当に遊べる女見つけて自分の欲求処理してやろうと思ってたけど……。
目の前でイチャこかれて、そんな目論みもすっかり萎え切る。
……俺とその女とどっちが大事なのー?
うざい女の常套句を頭の中で再生して、泡の全くなくなった生中のジョッキを飲み干すと、無言で席を立った。
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