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秋は私の季節です。
“天高く馬肥ゆ”季節と。古来から秋は実りの季節として知られています。
『では、解体を開始します』。
私は両手両足を縛られて。身動き一つ取れなくなった獲物を前にしながら言いました。
獲物は恐怖に怯えた目付きで。肉を切り裂く為だけの刃物を持った私を見つめています。
『この世の全ての生き物は。他の存在の命を奪いながら生きているのです。人間だろうが、あなたの様なイノシシだろうが』。
秋は実りの季節です。私が通う学園の園芸部を食い散らかしたこのイノシシには。猪鍋になる事で代価を払ってもらいます。
園芸部の敷地に仕掛けた罠に引っ掛かったこのイノシシを。秋の学園祭の催しの一環として。解体して猪鍋にする事にしました。
『殺す前に教えておきます。私の名前は紅葉です。秋に産まれたから紅葉。単純ですね』。
イノシシに人間の言葉が分かるとは思いませんが。殺して肉にして喰らう相手に対する礼儀だと思い、私は名乗りました。
『あなたの肉を使った猪鍋は。学園祭に訪れた人達に配ります。あなたの命を私達皆が分かち合います』。
私は最後にそう告げると。イノシシに死をもたらしました。
私の名前は紅葉です。秋は実りの季節です。他の存在の命を奪うと同時に。犠牲となった命に対して感謝を捧げる季節です。
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