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少子化や都市への人口移動で過疎化した商店街に、私の目的地はあった。周りの無骨なシャッターと比べれば、余程マシに見えるお店。それでも、新しさは感じない。古めかしいというわけでもなくて、落ち着いたというような、この空間によく馴染んでいるというか、私みたいな初めて来るお客さんにも、安心感を持たせてくれるような雰囲気を持っていた。
ドアは今やメジャーになった自動ではなく、ノブを掴んで開けるタイプのもので、押すと電子音の代わりに心地よいベルの音が響いた。
「いらっしゃいませ」
そのベルに負けず劣らず、心に溶け込むような柔らかい声音が店の奥から聞こえてくる。そして、その声の持ち主が現れた。
「あなたが、テディベアだっていう人ですか?」
「ええ、そうです。恥ずかしいんですけどね。お待ちしてましたよ、澪篠(みしの)さん」
軽く礼をする男性は、背は高めで髪は首に届くくらいの長さで、少しあどけなさの残る少年のような顔に似合っていた。これで私と同い年だというのだから、急に化粧は大丈夫だろうか、老けて見られていないだろうかと気になってしまう。
でも、それよりも気になったのが、どうして彼がテディベアと呼ばれているのかということだ。見た目が熊みたいなのかと思っていたけど、そうではなさそうだし、可愛らしいというには、主に長身のために大人っぽさの方が強い。私は、佳奈恵との会話を思い出した。
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