テディベアな彼と秘密

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*** 「佳奈恵、小学生の男の子って、なにを貰ったら喜ぶんだろう」 「突然どうしたの? 近所に気になる子でもできた? たとえ二十歳近い年の差でも、私はその恋を応援するよ」  佳奈恵は私の勤めている会社の同期だった。会社は最近、外国人観光客の増加で忙しくなっていた旅行代理店で、昼休み中の会話だった。 「何日か前に、同窓会をしたんだ。成人式でもやったから、六年振りかな。それで、仲のいい友達の子どもが誕生日だってことを知ったんだけど、私もなにかあげようかなって。やっぱり、小さい子って可愛いよね」 「恋愛の気配はないのね」 「私には友達の息子で、しかも小学生の子に手を出すなんてできないし、しないよ。それに、まだ焦る時期じゃないかなって思ってる」  出会いもないし、とは心の中で付け加える。 「小学生の男子に誕生日プレゼントね。今はスマホやら携帯ゲーム機やらで遊ぶ子どもが多いし、ゲームソフトが無難じゃない? 本を貰っても喜ばないだろうし、好きなスポーツがあるならサッカーボールとかバスケットボールとか」 「でも、あまり高いものだと、友達にも余計な気を使わせるかもしれないから、そんなに高くないものがいいかなとも思うの。それに、本当に欲しいものは親が買うだろうし、親よりも子どもが欲しいものを選んでしまったら気が引けるし」 「面倒くさいこと考えてるわね。それならいっそ、渡さない方がいいじゃない」 「言ってて私もそう思えてきた。でも、やっぱり、ね」  誰かにプレゼントを渡す機会なんて、しばらくなかったし、子どもの笑顔は疲れた心を回復させてくれる。だけど、子どもが欲しいというのと、現実的な思考は乖離している。 「じゃあ、オススメの玩具屋さんを教えてあげる。今は私の幼馴染が店主をやっていて、テディベアみたいなやつなのよ。アイツならきっと、いいプレゼントを選んでくれるんじゃないかな」 「テディベア?」 「そっ。まあ、実際に会って聞いてみなよ。話題はあった方がいいでしょ?」  大体どの職種であってもそうだろうけど、コミュニケーションができるというのは、とても必要なことだ。そして、話題が一つでもあれば、相手の心と距離を詰めることができる。百聞は一見、一会話に如かずだ。
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