第1章

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涼しい風が、髪をなびかせた。 それは、秋の訪れた合図。 制服の衣替えで、ほとんどの子がセーターになった。 マスクをする子が増えた。 プールの授業がなくなった。 帰り道が暗くなった。 どこかでコオロギが、さびしげに鳴いた。 それは、秋の訪れた合図。 「哀、行くよ!」 廊下の向こうから、私を呼ぶ声。 教室の窓際で、外を見ていた私の乾いた心に、 からからと、吹き抜けるように通り過ぎる声。 こだまして、頭の中を満たしていく。 校庭で野球してる男子。 バットにボールが当たる、。 (来たな。) はいりから、他の球とは違う。 音の高さ。響き。胸の高鳴り。 「ホームラーン。」 一人、誰もいない。 教室は、私の声さえ響かない。 窓をなぞる指先は、ボールがネットを越えたとき、 行き場をなくして、ポツリ、取り残されてしまう。 (あーあ。) 逆転ホームラン。6対7の接戦。 勝ったのは、最後にホームランを打ったチーム。 「負けちゃった。」 勝ったチームの周りに人だかりが出来る。 負けたチームはそのまま静かに部室へ戻る。 「やっぱりね。」 知りたかったものが見えてしまった感じがした。 知りたかったのに、後悔という名の感情がどろどろと湧き出てくる。 “勝ちが勝ち” その真実を証明したかったはずなのに。 途中までどんなにこつこつ頑張ったって、最後負けたら、負け。 最後の最後に、追い上げて勝てば、勝ち。 「だから、私は秋が嫌い。」 ドアから、様子を見てた愁がいう。 二人は、足音も聞こえない位に静かに歩み寄る。 そして、大きく息を吸う。 「秋は、冷たいから嫌い。」 「秋は、私を置いて行くから嫌い。」 「淋しくなるから嫌い。」 「静かだから嫌い。」 交互に叫ぶ言葉。 心に溜め込んで、ぶつけ合う。 互いを傷つけるように、互いを守るように。 優しいような、冷たいような。 心を引き裂くナイフのようで、必死に紡ぎあうこの心のようで。 又、教室に、静かな時間が訪れる。 風の音しか聞こえない。 ひざまである、重たいスカートの中を、一周回ってから、 何もなかったように、消えていく。 「さようなら。」 二人は静かに手を合わせ、そしてひとつになる。 哀愁漂う教室。 誰もいない。 誰もいない。
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