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綺麗な赤い髪までシュンと意気消沈しているみたいに見えて、あずきはちょっと笑いそうになる。
そうは見えないけれど、やっぱり夏樹は夏樹なりに、本気で言ってくれたのだ。
ありがたいとは思うけれど、どうしたって夏樹にはついて行けない。
見ている分には楽しいけれど、長く一緒にいるなら、やっぱり共に考えたり悩んだり出来る、同じペースで歩ける人がいい。
夏樹と一緒だと、思いっきり振り回されて、いつもいつも、
『これって本気なの?』
と悩んでしまう。
夏樹の本気について行けない。
夏樹という男は、いうなれば……。
そう、この季節の流行りのように、
「――夏樹」
あずきが呼べば、夏樹はひょいと頭をあげた。
今夜はたくさんの仮装を見せてくれて、あずきにたくさんのびっくりをくれた、このいたずら小悪魔に、
「ねえ、Trick or Treatって言って」
あずきは言う。
夏樹は怪訝な顔をしながらも、
「Trick or Treat?」
といい声で聞いた。
だからあずきは、そっと背伸びして、夏樹の唇に軽いキスをする。
「!」
夏樹は驚いた顔をして目を見張っている。
あずきは、
「お菓子は持っていないから、今夜はイタズラ。これで勘弁してね」
と笑う。
夏樹もふと表情を緩めて、
「この場合、イタズラしていいのは、俺じゃねーの?」
目尻を下げた。
あずきが、
「いーの。昨日と今日の報酬よ」
と返せば、
「そっか。釣りが今夜の料理じゃ、全然足りなかったな。ちょっと得した」
夏樹はやっと、夏樹の顔で笑ってくれた。
2015.10.31 ――了――
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