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夏樹と、部屋の一室にふたりきり。
それも明かりが薄ぼんやりした灯明の光だけという、頼りない中だ。
和拵えの部屋。
ゆらゆらと揺れる炎は、電灯に慣れたあずきの目には、どこか異世界に迷い込んだように映る。
そこに住まうのが、たいそう美しい異界の主、夏樹。
とても綺麗だけれど、同時に怖い。
夏樹にこのまま奪われて、このまま夏樹の側にいたら、あずきはあずきで無くなってしまうような、そんな怖さ。
それほど今夜の出来事は、あずきの住む世界とはかけ離れていた。
夏樹は天真爛漫な顔で、大胆不敵なことをやらかす。
あずきとは全然、感覚が違う。
正邪の基準が違う。
こんなの、いつか分かり合える日がくるとは、到底思えない。
実際に、燭台の灯りで赤く光る夏樹の瞳は、まるで人外ものにも見える。
そしてあずきを抱きしめる夏樹の腕は、びくともせずに固い。
夏樹は、最初からこんなだったか?
頬にかかる柔らかい吐息は、本当に夏樹のものか?
あずきの知らない、何か違うものではないのか。
「目を閉じて……」
夏樹は言うけれど、とても従えない。
従ってしまえばもう二度と、あずきはあずきの世界に帰れない気がした。
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